※本記事に登場する人物名、劇団名は仮名とさせて頂きます。
「その①【旗揚げ】」、「その②【大阪・放浪記】」をまだ読まれていない方は、ぜひそちらをお読みになってから当記事をお読みください!👇
作家と言う生き物。
先生と凡人。
劇団をやるうえでの葛藤のひとつに、役者と言う「呼ばれてなんぼ」の存在と言うのがあります。
舞台やメディアに出たい役者は、世の中には腐るほど居る。
プロデューサーや作家や演出家がいて、そこに「呼ばれる」存在でなければならないのです。
いや、作家、演出家も腐るほどいるが、絶対数は確実に役者の方が多いので、売れるまでは特に、重宝がられ方の違いを感じます。
演劇やお芝居の世界で、「食って行く」手段として、「教える事を生業」にする逃げ方があります。
養成所や大手の劇団の専属の演出家や講師になったり、または芸術系の大学などで教えると言った類のもの。
だいたい、その道で「食っていけなかった」人が、食ブチとして、食えていない人たちに芝居を教えるもんだから、滑稽な話ではある。
しかし、それは往々にして「作家」、「演出家」が多く、役者が選ばれることは、ほとんどありません。
時に「先生」と呼ばれることもある人種です。
笠木と言う人間。
だからと言って人間的に素晴らしいかと言うと、もちろんそんなことはなく、私が所属した劇団「パラダイス座」の笠木(かさぎ)という男のクズっぷりには本当に頭を悩ましました。
先ず、働かないから金がない。金がないから団費を払わない。払わないから他メンバーが補填するしかない。打ち上げ費も周りが補填する。
金が無いから、「腹が減った」と言って不機嫌になる。
ようやくバイトしたかと思うと、それにパワーを奪われ、本を書かない。それにパワーを奪われ、寝てばかりで遅刻する。
台本が遅れるから、各スタッフや客演さんなどに、周りが頭を下げる始末。
何よりも、全て他人のせいにして、言い訳をし、自分の非を認めない。
稽古場に来ないから電話しても、明らかに寝起きの声で出て
「今向かっているから、もうすぐ着く」と言い、
きっちり、1時間以上遅れる・・・。
大事な時期での失態。
この頃になると、パラダイス座も、幸いメディアに取り上げられる様にもなってきていました。
しかしながら、マネージャーなんてもちろん居るわけがないから、
一役者でまだ「しっかりもの」と言われている自分が、いつの間にか笠木の面倒を見、マネージャーみたいな事をしていました。
取材と言ってももちろん、話を聞かれるのは笠木だけ。
こう言う時にも、メディアは作家、演出家にしか興味がありません。
一役者でしかない自分は、ほぼ付き添いのお世話係としか思われていないのです。
笠木はもちろんいつも、取材相手との約束の時間には、来ない。
焦るのは、いつも自分ばかりです。
電話してもいつもの「今向かっている」だとか「今日だとは聞いてなかった」とか、相変わらずの言い訳&他人のせいのオンパレード。
取材先に待って貰う様、謝るのはいつも自分で、提出する資料を用意するのもいつも自分。
ようやく相手してくれる様になった取材先に、そのチャンスに粗相が無いように必死でした。
この頃の取材と言うといつもこんな感じだった・・・。
しかし自分がマネージャーなら問題ないが、役者である自分がなぜ、
こんなだらしない人間の親兄弟みたいなことまでしなきゃならないのか、という気分になっていました。
それでも「売れたら勝ち」、「いつか売れるその日まで」を心で繰り返し、耐えていた。
もやは、何が劇団員の仕事か、引っ越し事件。
しばらくすると、笠木は、付き合い始めた女の家に潜り込むようになります。
世の中には本当に「ダメンズウォーカー」というのは存在して、どんだけだらしなくても、母性本能をくすぐられるのか、クズ男を受け入れる女性が一定数居るから不思議です。
しばらくは、その女と自分の部屋を行き来していたらしいが、いよいよ、その女と同棲するからと、ある日、引っ越しを手伝ってくれと頼まれました。
私は、同じ劇団員だった根村(ねむら)と共に、ハイエースを借り、笠木の住むアパートに向かいました。
玄関で呼び鈴を鳴らせど、携帯を鳴らせど、出てこない。
まさかと思ったが、人に協力を頼んでおいた自分ちの引っ越しですら、こいつは遅刻してくるのか・・・と。
電話を何度しても出ないし、戸を叩いて呼んでしばらくしても、反応は無い。
部屋の中からは人気がしないので、笠木自身は女の所か・・・。
私と根村は。途方にくれました。
レンタカー屋で車まで借りてきているのに・・・。
どうしようもなく、取り急ぎ、根村と私は2人で、荷物を出し始めることにしました。
空くかどうかも解らない玄関の扉を右にスライドさせた瞬間、カギは閉まっておらず、悪臭と暗い部屋の中が見えた瞬間・・・、
「ドサッ!」という音と「ザザザァッ!」という、二つの音が鳴った。
一つ目の音は、玄関の扉に挟まれた、ありとあらゆる、料金未払いの請求書・・・。
二つ目の音は、ネズミとゴキブリが勢いよく視界から逃げて行く音だでした。
何枚も、大家からの家賃の請求書共に、督促の手紙もあったために、私と根村は、一気に焦り始めました。
こんな時に大家に見つかったら、私たちが何を言われるか解らない!
きっと、何もかも支払わずに数か月放置していた、悪臭と害虫が満ちている部屋を、
当の本人不在で、何故、ただの劇団員と言うだけで、大家にビクビクしながら、
夜逃げ同然で他人の部屋の引っ越しをしなければならないのか・・・。
怒りと焦りと、虚しさと。
根村と私は、汗だくになりながら、2時間以上かけて、とりあえず荷物を載せ、その後、予め伝えられていた、笠木と女との同居先に向かいました。
その女との同居先に付いて笠木に電話しても出ず、呼び鈴を鳴らして、ようやく、いけ好かない女の方が出てきて、笠木が顔を出した。
謝るどころか、突然の訪問に、迷惑ぶってる勢いでした・・・。
意識し始めた、東京。
旗揚げして5年が過ぎる頃、私たち劇団「パラダイス座」は、東京を意識するようになってきた。
やはり劇団が売れるには、東京でも実績を上げなければならない。
大阪公演を打つ時は、東京公演もするようになりました。
しかし、あろうことか劇団員に関東出身は1人も居らず、身内客すら見込めない。
もちろんツテを辿って宣伝に協力して貰ったりするが、東京公演をやると言っても全く動員が見込めません。
ようやく大阪公演で、トントンになる時もあった公演費も、東京公演で莫大な赤字が出ていました。
ある年の東京公演で、僕らは、自らの行為に恐怖します。
勢い任せに、ようやく抑えれた劇場、「下北沢 駅前劇場」。
全く動員の見込みも無いのに、演劇の街、下北沢での初めての公演に、胸を躍らせていました。
しかし、時はやってきました。
勢いよくステージに上がって客席を見た時に、びっくりしてセリフが飛びました・・・。
観客、ゼロ人・・・。
お客さんが誰も居ない、本番。
私たちは、何に対して、セリフを発し、なんのために歌い、踊っているのか・・・。
いや、むしろ客が居ないのなら、これはもう、通し稽古でしかない・・・。
もちろん、この公演は大赤字となり、劇場を出る時に、どう計算しても、劇場費も劇場側に払っていけない事が解りました・・・。
僕らは、劇場のスタッフに、
「30分だけ、待ってください!」
そういうと、下北沢の駅前から、劇団員はチリジリバラバラ放射状に駆け出し、
下ろせるお金を全部下ろし、もちろん下ろせるお金なんてほとんど無いから、
そこからは、各カードローンのATMを探し、借りれるだけの金を借りて、なんとか劇場費を払い、下北沢をあとにしました。
借金だけが増えたのに、体はクタクタで・・・。
それでも、もちろん、大阪までは、格安の夜行バス。
半分以上が外国人で、狭い社内では肩と肩をぶつからせながら、
トイレが付いていないおんぼろバスは、2時間ごとにサービスエリアでトイレ休憩で止まり、
ほとんど寝れないまま、眩しい梅田の朝日に迎えられるのでした。
もちろん、それでもステージに立っている時は楽しかったし、「この苦労こそが、いつか報われる!」
そんな気持ちで生きていました。
ある意味、私は毎日、精一杯生きていたし、燃焼していた。
その燃えカスが、いつか大きな大木を育てることを願って。
(その④へ続く)
※その④はコチラ👇!
「芝居・役者・舞台の魅力と苦悩~僕の演劇人生、劇団日記~その④【希望と、迫りくる影】」
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